時宗宗祖一遍上人 ~熊野成道~

一遍上人は、この熊野の地で一大転機を迎えたのです。山道で一人の僧と出会った一遍上人は、念仏札をわたそうとするが信心が起きないので受け取れないと拒まれ、押し問答の末に無理矢理わたしてしまいます。この出来事で苦悩した一遍上人は、熊野権現くまのごんげんにすがるため、熊野証誠殿に参籠したのです。すると山伏姿の熊野権現が現われ、念仏勧進の真意を一遍上人に示されました。そのとき、熊野権現は一遍上人に「融通念仏ゆうずうねんぶつを勧めている聖である一遍上人よ、なぜ、間違った念仏を勧めているのか、あなたの勧めによりはじめて人びとが往生できるのではない。すべての人びとの往生は、十劫というはるか昔に法蔵菩薩が覚りを得て阿弥陀仏に成ったときから南無阿弥陀仏と称えることにより往生できるのである」と告げられたといいます。

このことを熊野権現の神託といい、このときを立教開宗としています。そして、この境地を表したのが「六十万人頌ろくじゅうまんにんじゅ」です。一遍上人は、同行していた三人を熊野の地で放ち捨て迷うことなく念仏札を配り16年間に及ぶ念仏勧進の旅を続けたのでした。